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総資本利益率の「利益」とは?/病院経営の指標・読み方Vol.11

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

「事業に投下している資金」に対して、本業で儲けるチカラは、どれだけあるでしょうか? 財務分析について、考えてみました。

決算が終わったら、ぜひ財務分析を

3月決算の法人の場合、5月末までに確定申告書を提出しますので、このレポートを読んで頂く頃には決算が終わりホッとされている頃かと思います。しかし、せっかく決算書が出来上がったのですから、ここで経営に活かすために財務分析を実施してみてください。

財務分析の指標は様々なものがありますが、厚生労働省のホームページを参考にして貴院の実績と比較すると、ご参考になるのではないでしょうか。

厚生労働省(病院経営管理指標):https://www.mhlw.go.jp/content/000633949.pdf

財務体質を包括的に表している「総資本医業利益率」

さて、上記のリンク先の中には、複数の分析指標が挙げられています。この中で最も病院の財務体質を包括的に表している指標は、「総資本医業利益率」です。リンク先では「医業利益率」と記載されています。なぜ「医業利益」なのでしょうか。

損益計算書には「利益」が5つあります。なぜ、経常利益率ではないのか。あるいは他の「利益」でないのか。実はこの点が、非常に重要なポイントなのです。

「医業利益」は医業収益から医業費用を差し引いた残りの利益です。医療法人の場合は、患者さんや利用者に対する治療行為やサービス提供をした対価(収益)から、必要になった人件費や光熱費などの経費(費用)を引いて計算されます。収益とは事業(サービス)の提供先から頂く収入であり、費用とはサービスを提供するために直接かかった経費のことを指します。逆に言うと、「サービスの提供先」以外から頂く収入や、「直接かかった経費」ではない費用は、計算に含まれていない段階の利益のことを、「医業利益」と言います。

言い換えれば医業利益とは、その法人の「本業の儲ける力」を表しています。この「本業の設ける力」である医業利益が、総資本(法人が事業をするために投下している資金の全額)に対してどのくらいの割合あるのかを示したのが「総資本医業利益率」なのです。

医療法人の総資本医業利益率は、非常に低い

1万円を投資して5千円の利益があれば、総資本利益率は50%です。1万円を投資して100円の利益の場合は、総資本利益率は1%です。

冒頭の厚生労働省のホームページを見ますと、医療法人の総資本医業利益率は1%程度ですので、非常に低いのです。その理由は、医療法人、特に病院は最初に大きな設備投資が必要なため、総資本が大きくなる傾向にあるからです。ちなみに日本の上場企業の総資本利益率の平均値は5%です。

計算式に使う利益が「医業利益」であって、「経常利益」を使っていない理由は、繰り返しになりますが、経常利益は本業以外の収益(金融機関からの受取利息や国からの補助金等)と費用(金融機関への支払利息など)までを含めて計算される利益だからです。本業での実力ではないのです。

科目の意味を把握して、分析結果の意味を考える

ここで、もう一つ重要なポイントがあります。

ここまで説明してきた医業利益率ですが、皆さんの決算書では、果たして本当に、本業による収益と費用が計上されていますでしょうか。例えば入院患者さんの日用品費(おむつ代、病衣など)は、どこの収益に計上されていますか。医業収益でしょうか。医業外収益でしょうか。

ある病院では、入院に係る日用品代や生活に関する費用(TVカード代など)は「医業外収益」の区分に計上しており、医業利益の中には含めない経理処理をされています。このような場合、総資本医業利益率は低い値になってしまいます。

確かに、おむつ代や病衣などの生活用品代は直接治療に必要ではないため、病院の本業(治療行為等)による収入でない事は確かです。しかし入院患者さんから頂く収益としては同じ収益ですし、患者1名を受け入れたことに対する収益であることには変わりありません。私は、医業利益に含めて財務分析をすべきだと考えています。

財務分析の結果は、このようにどの勘定科目に計上されているかによって、数字が左右されてしまいます。ときにベンチマーク指標と大きく乖離することもあります。「人件費」一つをとっても、人材派遣料を含めているか、役員報酬を含めているか、人材紹介手数料を含めているかなどによって、分析結果が全く異なります。計算式通りに計算すれば分析したことになるのではなく、その勘定科目にどのような取引が集計されているかまで把握した上で、財務分析を実施して頂きたいと思います。

病院決算書の読み方「最初の10分で確認する決算書の重要ポイント」

本稿の執筆者

藤原ますみ(ふじわら ますみ)
NKGRコンサルティング株式会社 取締役

クリニック・病院・社会福祉法人の財務会計に従事し、有料老人ホームの立ち上げにも参画する。現在は、病院の財務・管理会計の導入を通じた経営改善も担う財務のプロフェッショナル。公的機関主催の研修でも講師を多数務め、数字に苦手な受講者でも「今までで一番分かりやすかった」と、絶大な支持を得ている。

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本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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